そのサイクリングブルースはひたすらに南へ向かっていた。

京都を出発してから何日が経っただろう。

京都での暮らしも悪くはなかった。
音楽と自転車を愛する彼は、それなりに楽しい日々を過ごしていたのだ。

決して裕福ではなかったが、自転車屋で働いて、ライブハウスではDJをやり、好きなバンドを呼んでイベントを開催、素晴らしい仲間達もたくさんいた。

ある秋の日彼は旅に出た。
何かが足りない‐
とか
自分を探しに‐
とか
そんなかっこいいものではなく、
ふと思い立った。
くらいが彼らしいところか。

音楽好きな彼の旅の相棒はウォークマンだった。

相棒がパンクを鳴らせばペダルを漕ぐ足は加速したし、ポップスを鳴らせば体は軽やかになった。

しかしある日野宿から目を覚ますと、相棒が無いことに気付いた。探しに探した。すべてのポケット、カバンの底、ベンチの下、路地裏の窓、新聞の隅、明け方の町、向かいのホーム、こんなとこにいるはずもないのに!

…音楽は失ったが、雨や風、太陽の光、ブレーキや、タイヤと路面が鳴らす音、一瞬で自分を追い抜いていく車の音が、彼の耳にはブルースに聞こえた。

基本は野宿だが、数日に一回は宿にも泊まった。ある日京都の彼女から宿にi-Podが届いた。中には彼と彼女が好きだったたくさんの曲が入っていた。
それは故郷を懐かしみ、彼女の笑顔を思い出し、彼をセンチメンタルにさせるには充分だった。

つづく